建物内に行き止まりがない「回遊動線のある間取り」にすることで、家事や生活動線がスムーズになり、ストレスを軽減できます。回遊動線を取り入れる際は、メリット・デメリットを理解し、入念にシミュレーションを行いましょう。
本記事では、回遊動線の種類や特徴、設計する際のポイントを解説します。回遊動線を上手に活用した間取りの実例も紹介しているため、ぜひ参考にしてみてください。
回遊動線のある間取りとは
回遊動線とは、建物内に行き止まりがなく、目的の場所にスムーズに移動できる動線のことです。それぞれの部屋を通り抜けられ、出入り口が2つ以上設置されている空間は、回遊動線が確保された間取りと呼べます。
たとえば、「玄関を抜けてリビング」→「リビングを抜けてキッチン」→「キッチンを抜けて脱衣室」のように、部屋から部屋へと行き来できる間取りを指します。
一方で、キッチンで行き止まる間取りや、リビングの出入り口が1カ所の間取りは、回遊動線がある間取りとはいえません。
回遊動線があると、忙しい朝でも家族の渋滞が起きにくく、ストレスが少なく済みます。また、動線がスムーズであるため、家事や子育ての負担も軽減できます。
回遊動線の種類
回遊動線の間取りタイプには、主に以下の3種類があります。
- リビング起点の回遊動線
- キッチン起点の回遊動線
- 脱衣室起点の回遊動線
ここでは、それぞれの特徴を解説します。
1. リビング起点の回遊動線
一般的に家のなかでもっとも広い空間であるリビングを起点に動線を設計することで、高い回遊性が見込めます。外出時や帰宅時に必ずリビングを通ることになり、家族とのコミュニケーションを深められるのもメリットです。
ただし、リビングを落ち着いた空間に設計したい方には不向きかもしれません。リビングに回遊動線があると、人の行き来が多くなるため、やや騒がしい雰囲気になりやすいためです。
落ち着きがありつつ、リビング起点の回遊動線を設計する場合、リビングスペースはあまり干渉しすぎないように動線を確保するのがおすすめです。
2. キッチン起点の回遊動線
キッチンを起点に「キッチン→パントリー→脱衣室→LDK」のように回遊動線を設計することで、家事の負担を大きく軽減できます。食材や調理家電がある収納スペースにすぐに移動できるほか、料理の配膳時の効率も高められます。
また、玄関からキッチンへの回遊動線を設計することもおすすめです。買い物から帰宅した後に、食材をキッチンへとスムーズに持ち運べるため、時短や負担軽減につながります。
パントリーの間取りについて詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
【アイデア多数】パントリーの間取り実例!設計時のポイントも解説
3. 脱衣室起点の回遊動線
脱衣室・洗面所を起点に、「脱衣室・洗面所→洗濯機置き場→物干し場→クローゼット」のように回遊動線を設計することで、家事効率を高められます。
洗濯や乾燥、収納などの作業を一貫して行えるだけでなく、リビングからバスとトイレ、それぞれの動線を分けることにより家族間で起こる渋滞を解消できます。
家族一人ひとりの専用クローゼットがあると、動線距離が長くなるため、脱衣室から回遊しやすい場所にファミリークローゼットを設けることもおすすめです。
家事が楽になる間取りや動線について知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
回遊動線のメリット
回遊動線のある間取りにすることで、以下のようなメリットがあります。
- 生活や家事をするうえでストレスを感じにくい
- 渋滞が起きにくく揉め事を避けられる
- 子どもが浴室に直行できるので部屋を汚しにくい
それぞれ順番に解説します。
生活や家事をするうえでストレスを感じにくい
回遊動線が確保されていない間取りの場合、目的の場所に行くために回り込む必要があるなど、移動距離が長くなりやすく、人によってはストレスを感じることがあります。
しかし、回遊動線があれば行き止まりがないため、目的の場所にスムーズに移動できます。生活や家事の動線がスムーズになることで効率が上がり、ストレスも軽減されるでしょう。
また、行き止まりが少ないことで、心理的な解放感を得られるのもメリットです。
家事や子育てがしやすくなるような、「ママに人気の間取り」について知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
ママに人気の間取りアイデア10選|シチュエーション別のアイデア集
渋滞が起きにくく揉め事を避けられる
朝の時間帯は、洗面所やクローゼット、トイレなどの使用が家族で重なりやすくなります。混雑する主な原因は、部屋の出入り口が一つしかないことです。
この状態が長く続くと、家族がストレスを感じ、場合によっては揉め事に発展する可能性もあります。
そこで、行き止まりのない回遊動線を設計することで、時間帯による混雑が起きにくくなります。自分が部屋にいて後から家族が入ってきても、人がいない方の出入り口から出られるため、渋滞を回避しやすくなるでしょう。
家族の人数が多く、朝の時間帯に洗面所などが混雑する家庭には、回遊動線を意識した間取りにすることがおすすめです。
子どもが浴室に直行できるので部屋を汚しにくい
子育て世代のご家庭の場合、汗だくで砂まみれになった子どもが帰宅した際に、リビングなどを横切ると、通った部屋に数多くの汚れがついてしまうこともあるでしょう。
玄関から浴室へ直行できる回遊動線を設計することで、部屋が汚れるリスクを抑えることが可能です。掃除にかかる手間や時間を削減できるほか、動線上に着替えやバスタオルなどを置くウォークスルークローゼットを設置することで、さらに使い勝手が良くなります。
子育て世帯におすすめの間取りを知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
回遊動線のデメリット
回遊動線にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 生活・収納スペースの一部が削られる
- 壁が少ない構造では耐震性に不安が残る
- 材料費や施工費が高くなる可能性がある
回遊動線のある間取りにして後悔しないためにも、それぞれの内容を押さえておきましょう。
生活・収納スペースの一部が削られる
回遊動線を重視した間取りでは、回遊できる通路を確保する必要があり、生活・収納スペースの一部が制限される恐れがあります。
具体的には、各部屋に出入り口を2つ以上設置すると、収納に必要な壁面や設置スペースが少なくなり、室内を圧迫することが想定されます。
回遊動線のある間取りにする場合は、生活・収納スペースを充分に確保できているかについて、事前にハウスメーカーへ相談しておくことが大切です。
壁が少ない構造では耐震性に不安が残る
回遊動線を意識しすぎるあまりに、開口部が多く耐力壁が少ない構造になると、耐震性に不安が残る可能性があります。
壁面は建物の耐震性を考えるうえで、建物の強度を左右する重要な要素です。壁が少なければ建物全体のバランスが崩れ、接合部の引き抜けにより、地震の際に倒壊するリスクが高まります。
回遊性と耐震性のバランスを保つためには、ハウスメーカーに事前に相談し、専門家の意見を取り入れることをおすすめします。
<h3>材料費や施工費が高くなる可能性がある</h3>
回遊性が高い家は、各部屋の出入り口が多くなり、コストが高くなる可能性があります。これは、出入り口が多いと、ドアなどの材料費や施工費が増えて建築コストが膨らむのが一般的であるというのが理由です。
コストが想定よりもかかる事態を防ぐためには、事前に複数の間取りパターンを検討し、それぞれ見積もりを算出したうえで、細かく精査することが重要です。
回遊動線を設計する際のポイント
回遊動線を設計する際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 回遊性以外の面にも着目して優先順位を付ける
- 家族と話し合いつつ実際の暮らしをシミュレーションする
- 施工実績が豊富なハウスメーカーを選ぶ
それぞれ詳しく解説します。
回遊性以外の面にも着目して優先順位を付ける
狭小地で無理に回遊動線を取り入れると、収納不足や部屋の面積が狭くなるなどの弊害が発生する恐れがあります。部屋が物であふれ返ってしまうと、掃除に手間がかかり、かえって家事の効率が悪くなってしまうでしょう。
そのため、家事や子育ての効率を高めたい場合は、回遊性以外の面にも着目する必要があります。
家づくりでは、部屋の広さや収納の面積を確保することが最優先といえます。また、安全面にもかかわる耐震性も、重要項目として検討しなければなりません。
充分な生活スペースや安全面も確保したうえで、部分的に回遊性が劣っている箇所を見つけ、間取り図に案を盛り込む流れで進めるのが理想の流れです。
回遊性のみを重視するのではなく、複数の要素を洗い出し、優先順位を付けて決めていくことで、満足度の高い間取り設計を実現できます。
家族と話し合いつつ実際の暮らしをシミュレーションする
回遊動線をイメージだけで設計を進めてしまうと、「せっかく回遊動線を取り入れたのに誰も使わない」「最短ルートだと思っていたが、実際に生活してみると別のルートのほうが速い」といった、無駄な動線が発生しやすくなります。
そのため、家族構成や日々の暮らしを考慮して、家族でしっかりと話し合うようにしましょう。回遊動線は収納スペースが限られるため、事前に家具の配置を検討することも重要です。
ハウスメーカーの専門的な意見も取り入れながら、実際の暮らしをシミュレーションして、設計を進めていくようにしてください。
施工実績が豊富なハウスメーカーを選ぶ
回遊動線のある家は、建築・施工においても複雑で専門的な知識や技術が求められます。そのため、施工実績が豊富なハウスメーカーを選ぶことがポイントです。
施工実績が少ないハウスメーカーに依頼してしまうと、収納スペースが少ない、プライバシーを確保できないなど、暮らしにくい家になるリスクが高くなります。
ハウスメーカーを選定する際には、複数のハウスメーカーを比較することがおすすめです。Webカタログに加え、担当者とも話し合い、実績や信頼に値するかをよく確認しておきましょう。
回遊動線を上手に活用した間取り事例
回遊動線を上手に活用した間取り事例を3つご紹介します。家事のしやすさや家族全員の暮らしやすさなど、実際の生活をイメージしながら、間取り決めの参考にしてみてください。
家事動線の良い回遊動線を取り入れた間取り
家事動線の良い間取りは、忙しい子育て世帯にとって強い味方です。キッチン、ランドリールーム、トイレなどを効率的に配置することで、日常の家事の負担を軽減し、スムーズかつ効率的に行えるようになります。
例えば、キッチンは食材や調理器具が手の届く範囲に収まっており、調理中でも子供の様子が見えるような配置が理想的です。洗面脱衣所も同様に、洗濯機や洗剤などが使いやすく、洗濯物の収納や干すスペースも充実していると便利です。また、家族が集まりやすい広いリビングやダイニングスペースを設けることで、コミュニケーションも活発化します。
- こんな人におすすめ:家事効率を良くしたい人
- 間取り:2階建て3LDK
- 延床面積:102.70㎡(31.06坪)
1階床面積/50.52㎡ 2階床面積/52.18㎡
- ポイント:家事動線が良く、ライフスタイルに合わせて間取りを自由に変更できるところ
こちらの間取りは、洗面スペースがキッチンと廊下の両方からアクセスできるようになっており、水回りの家事効率の良い動線設計が特徴です。
2階の洋室は将来的に仕切りを入れて部屋を分けることができる設計になっており、お子様の成長やライフスタイルの変化に応じて柔軟に間取りを変更できるのも魅力的です。
玄関から洗面脱衣所が一直線な回遊動線を取り入れた間取り
玄関から洗面脱衣所への動線が良い間取りは、利便性、清潔さ、家事効率の向上などメリットが多いです。玄関から洗面脱衣所の距離が近いことで、身支度を整えてすぐに外出できたり、外から帰ってきた際に手を洗ったりできます。
特に子育て中の家庭では、子供たちが外で遊んだ後や食事の前に手を洗う機会は多く、風邪やウイルス予防にもつながります。また、玄関周りにはクロークや収納スペースを十分に確保しておくのもポイントです。買い物から帰ってきた際の荷物を置いたり、良く着るアウターをかけておいたり、手早く片付けることができるので便利です。
- こんな人におすすめ:玄関から洗面脱衣所への動線を良くしたい人
- 間取り:2階建て3LDK
- 延床面積:103.52㎡(31.31坪)
1階床面積/50.52㎡ 2階床面積/53.00㎡
- ポイント:広々とした玄関収納で整理整頓がラクなところ。
こちらの間取りは、子育て世帯に嬉しい広々とした玄関は、ベビーカーをそのまま入れられる広さで、子どもと並んで一緒に靴を履くことも可能です。クロークには、シューズだけでなく、ベビーカー・防災グッズ・アウトドア用品など大きな荷物もしっかり収納可能です。
玄関から洗面脱衣所、キッチン、リビングまで行き止まりのない回遊動線になっていることもポイントです。
リビング起点に回遊動線を取り入れた間取り
リビング起点の動線が良い間取りは、家族とのコミュニケーションを重視されたい方におすすめです。家族が集まりやすくなると、日常会話も自然と増えるため、共働きや子育て世帯など家族との時間を大切にしたい方は、リビングを中心とした間取りを検討してみてください。キッチン、玄関、洗面脱衣所、トイレ、2階へのアクセスが容易になり、生活の柔軟性も高まることもポイントです。
小さな子供がいる家庭では、リビングが中心だと、家事をしながらいつでも子供の様子を見守ることができます。ライフスタイルにあわせて、リビングに読書や勉強、仕事をするスペースを作ったり、映画を楽しめる環境を整えたりすることで、より家族全員で活用できる快適な場所にすることができます。
- こんな人におすすめ:リビングから各所への動線を短くしたい人
- 間取り:2階建て3LDK
- 延床面積:104.36㎡(31.56坪)
1階床面積/52.18㎡ 2階床面積/52.18㎡
- ポイント:家事動線が良いところ
こちらの間取りは、キッチンから洗面室に直接アクセスできる動線のため、料理をしながら洗濯などの家事もこなせます。家事を効率的にこなしたい方にピッタリな間取りとなっています。
玄関からリビングを必ず通る動線のため、自然とリビングに人が集まりやすく、家族とのコミュニケーションを大切にできます。キッチンからリビングを見渡せるので、子育て世帯にもうれしい設計です。
まとめ:回遊動線のある間取りで利便性の高い住宅を建てよう
本記事では、回遊動線のある間取りの特徴や設計時のポイント、実際の間取り事例をご紹介しました。
回遊動線には、リビング起点・キッチン起点・脱衣室起点と、大きく3種類あります。回遊動線のある間取りにすることで生活動線がスムーズになり、家族のプライバシーを確保しやすいことがメリットです。
ただし、生活・収納スペースが削られることや、コストがかかるなどのデメリットも想定されます。
回遊動線を設計する際は、部屋の広さや収納面積の確保など、回遊動線以外の面にも着目しましょう。実際の暮らしをシミュレーションし、施工実績が豊富なハウスメーカーの意見を取り入れながら間取りを決めることがポイントです。
回遊動線を上手に活用した間取り実例も参考にして、暮らしやすく利便性の高い住宅設計を実現しましょう。