2024年3月19日に、日銀は2016年から続けていたマイナス金利政策の解除を決定しました。これまでの異次元の金融緩和政策からの大きな転換点であり、経済や国民生活にどのような影響を及ぼすかが注目されています。
この記事では、マイナス金利解除が住宅ローンにどのような影響を与えるのかを詳しく解説します。
マイナス金利解除で住宅ローンの金利はどうなる?
日銀による政策金利の引き上げは実に17年ぶりとなります。この政策転換は、住宅ローンの金利にどのような影響を与えるのでしょうか。
変動金利が急激に上がる可能性は低い
結論からいえば、今回のマイナス金利解除によって変動金利が急激に上昇することはないと考えられるため、ローンの支払額は今までと大きく変わらないと考えられます。その理由は、住宅ローンの変動金利を決める基準の一つである短期プライムレートが、大手の銀行で据え置かれたことにあります。
短期プライムレートは、金融機関が優良企業に対して1年未満の融資で適用する最優遇金利を指し、住宅ローンの変動金利は短期プライムレートと連動しています。
通常、金利の見直しは年に2回(4月と10月)行われます。短期プライムレートは、日本銀行の政策金利や国内経済の動向によって変動し、景気の良し悪しに応じて上昇または低下する傾向があります。
したがって、短期プライムレートが据え置かれている現状では、住宅ローンの金利についても直近で大きな変動があるとは考えにくいです。
さらに、現在の住宅ローン市場にはメガバンク、地方銀行、ネット銀行といった多数の競合が存在し、顧客争奪戦が厳しい状況です。この中で、先に金利を引き上げると顧客離れを招くリスクがあります。
つまり、各金融機関は当面様子を見る状態が続く可能性が高く、金利が上昇するとしても緩やかな推移になると予想されます。
長期金利の上昇により固定金利が上がる可能性もある
固定金利型の住宅ローンは、マイナス金利が解除されても、その直接的な影響は少ないでしょう。
ただし、固定金利は長期金利に基づいて設定されるもので、数年前から長期金利は上昇傾向にあります。そのため、固定金利の上昇も既に始まっていると言えます。
長期金利は通常、債券市場の状況に応じて変動しますが、現在は日銀がこの金利を実質的に管理しています。
2023年7月、日銀は金融政策決定会合で、これまで0.5%程度に保っていた長期金利の変動幅の上限を、市場の動向に応じて0.5%を超える場合も認めると発表しました。(参考:日本銀行「政策員会 金融政策決定会合 議事要旨」)
例えば、1,000万円の住宅ローンにおいて金利が0.5%上昇した場合、年間の追加支払額は約5万円になる計算です。
以前は、金利が0.5%上がると日銀が介入していましたが、今後は0.5%を超える上昇も許容されるようになったため、将来的には金利がさらに上がることもあり得ます。
家計に与える影響は無視できないため、金利の動向には注意が必要です。
住宅ローン金利の現在までの推移
ここで、住宅ローン金利が過去どのように推移してきたかを見てみましょう。以下の表は、三井住友銀行のホームページで公開されている住宅ローン金利推移から作成したものです。
変動金利(短期プライムレート連動) | 固定金利(20年超35年以内) | |
2024年3月 | 2.475 | 3.17 |
2023年3月 | 2.475 | 2.99 |
2022年3月 | 2.475 | 2.07 |
2021年3月 | 2.475 | 1.95 |
2020年3月 | 2.475 | 1.59 |
2019年3月 | 2.475 | 1.68 |
2018年3月 | 2.475 | 1.73 |
2017年3月 | 2.475 | 1.66 |
2016年3月 | 2.475 | 1.68 |
2015年3月 | 2.475 | 2.09 |
短期プライムレート、つまり変動金利を決める基準は2009年の1月以来、約15年間変わっていません。
今回のマイナス金利政策の解除でも、この短期プライムレートは据え置きとなったため、変動金利に直接的な影響は少ないと考えられます。
また、20年以上35年未満の長期固定金利型ローンに関しては、2016年から2020年まで大きな変動がありませんでしたが、2021年からは金利が上昇する傾向が表から見て取れます。
2021年は、日銀が長期金利の変動幅を従来の±0.25%に拡大することを発表した年です。この政策変更により、長期金利は上昇しました。このような過去の事例を見ると、固定金利が今後も上がる可能性は高いです。
ただし、過去数十年間、日本の金利は異常に低かったことを理解しておくことが重要です。
リーマンショックや東日本大震災の影響で経済が大きな打撃を受けたため、日銀は「異次元の金融緩和」と呼ばれる措置をとりました。さらに、経済を刺激するために導入されたのがマイナス金利政策です。
マイナス金利の解除により、今後はより通常の金利水準に戻ると見られています。
マイナス金利解除を見据えた適切な住宅ローンの組み方
マイナス金利の解除が住宅ローンに与える影響はまだ限定的ですが、将来的には影響が広がる可能性があります。返済の余裕を持つための対策を考えておくことが重要です。
繰上返済用の資金を確保する
繰上返済は、通常の月々の返済に加えて、まとまった金額を追加で返済する方法です。
住宅ローンは借入期間が長ければ長いほど、支払う金利の総額も多くなります。繰上返済を行うことで、ローンの完済までの期間を短縮し、支払う金利の総額を減らすことができます。
住宅ローンを組む際には、将来的な繰上返済の可能性を考慮した返済計画を立てると良いでしょう。特に変動金利型のローンを選んだ場合、金利が上昇した際に繰上返済を行うことで、高い金利が適用される期間を短縮できます。
また、余剰資金を持っておくことで、金利が上昇した際にその影響を和らげることも可能です。一方で金利が上がらなかった場合は、資金をそのまま貯蓄として保持することもできます。
いざという時に対応できる選択肢を多く持っておくことは、将来にわたって大きな安心につながりますので、可能であれば初期段階から余剰資金を確保しておくことをおすすめします。
返済計画のシミュレーションを行う
金融機関の公式サイトや住宅ローンの比較サイトでは、返済額を試算できるシミュ―レーターが用意されている場合があります。住宅ローンを組む際には、このシミュレーターを活用してさまざまな返済シナリオを試してみましょう。
以下のコラムでは世帯年収ごとに組むことができる住宅ローンのシミュレーションを紹介しています。
住宅ローンはどれくらい借りられる?年収から見る目安やシミュレーションを紹介
たとえば、「変動金利のまま金利が変わらなかった場合」を基本としてシミュレーションし、そこから金利が上がった場合、固定金利に変更した場合、返済方法を変更した場合など、いくつかの異なるシナリオを試して比較します。
それぞれのシナリオのメリットとデメリット、返済負担が増えた場合の具体的な影響を事前に検討することで、万が一の状況にも柔軟に対応しやすくなります。
なお、シミュレーションを行う際には、「5年ルール」と「125%ルール」についても知っておくと良いでしょう。
5年ルールとは?
5年ルールとは、ローンの返済額を5年ごとに見直すルールです。金利が上がった場合でも、次の返済額の見直し時までの最大5年間は今の返済額が続きます。
たとえば、月々の住宅ローン返済額として10万円を支払っているとします。このローン契約に5年ルールが適用されている場合、たとえその間に金利が上昇したとしても、次の5年間の見直し期間までは返済額は10万円のまま変わりません。
125%ルールとは?
125%ルールとは、金利上昇により5年ルールでの見直しで返済負担が増加する場合でも、変更後の返済額は前回の返済額の最大125%までに制限されるというものです。
たとえば、月々の返済額が10万円である場合、125%ルールが適用されていれば、金利の変動による返済額の増加があったとしても、返済額は元の額の125%である12万5千円を超えることはありません。
つまり、金利上昇により返済額が本来15万円に上がる状況でも、125%ルールが適用されることにより12万5千円に抑えられることになります。
5年ルールと125%ルールの注意点
5年ルールと125%ルールには、いくつか共通する注意点があります。
未払い利息が発生する可能性がある
まず、未払い利息が発生する可能性です。どちらのルールも、金利が上昇した際に返済額の増加を制限するためのものですが、支払うべき利息は増えるためルール適用期間中に支払いきれない利息(未払い利息)が発生する可能性があります。
将来的に返済額が増加する可能性がある
2つのルールによって月々の返済額の上昇は制限されますが、金利見直し時などに変動した金利が反映されると、知らず知らずのうちに利息が増え、前述した未払い利息が発生する場合があります。未払い利息は将来的に返済額に加算されるため、長期的に見て返済負担が増加する可能性があります。
5年ルールと125%ルールは、返済者が金利変動のリスクに対してある程度保護されるように設計されており、予期せぬ高額な返済額の増加から返済者を守る役割を果たしています。しかし、金利上昇による返済負担がなくなるわけではないという点に注意が必要です。加えて、ルールの詳細や適用条件は金融機関によって異なるため、住宅ローンを契約する際には必ず詳細を確認することが重要です。
まとめ:複数の選択肢を用意して金利上昇のリスクに備えよう
今回は、マイナス金利の解除が住宅ローンにどのような影響を与えるかについて解説しました。
結論として、マイナス金利の解除による影響は現時点では限定的であり、住宅ローンの金利が急に大きく上がることは少ないでしょう。
しかし、将来的には金利が上昇する可能性も考えられるため、引き続き動向を注視していく必要があります。
重要なのは、将来のリスクに備えておくことです。万が一金利が上がり、支払い利息が増えた場合に備え、余裕をもったローン契約を心がけましょう。